新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2 によるCOVID-19)の第5波の後、海外では再び感染が拡大していますが、日本の感染は終息しているように見えます。
どうして?わかりません。
日本人はなぜ新型コロナの感染者・死亡者割合が欧米に比べて低いのか?
興味深い医療ニュースを読みました。
http://www.qlifepro.com/news/20211209/covid19-memory-t.html
以下引用
新型コロナを殺傷するメモリーT細胞、日本人は風邪で既に備えている可能性-理研ほか
日本人はなぜ新型コロナの感染者・死亡者割合が欧米に比べて低いのか?
理化学研究所(理研)は12月8日、ヒトの体内に存在する季節性コロナウイルスに対する「記憶免疫キラーT細胞」が認識する抗原部位を発見し、その部位が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質(Sタンパク質)領域にも強く交差反応することを示したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター免疫細胞治療研究チームの清水佳奈子上級研究員、藤井眞一郎チームリーダー(科技ハブ産連本部創薬・医療技術基盤プログラム副プログラムディレクター)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」オンライン版に掲載されている。
2020年以降、SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが続いている。SARS-CoV-2の表面に存在するSタンパク質を使ったメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンなどが開発され、明確な効果が示されているものの、終息にはまだ至っていない。一方で、日本人のCOVID-19の感染者数や死亡者数の割合は欧米に比べて低いことが知られているが、その理由は不明だ。
日本人に多いHLAタイプに高親和性のエピトープとT細胞反応性の詳細は不明だった
一般にウイルス感染症では、抗体がウイルスの体内侵入を防御するが、ウイルスが体内に侵入した場合は、免疫細胞の「CD8陽性細胞傷害性T細胞(以下、キラーT細胞)」が活躍する。キラーT細胞は、感染細胞上でヒト白血球型抗原(HLA)に提示された抗原の一部を認識し、感染細胞を全て破壊することで、重篤化を防いでいる。この抗原の一部は「エピトープ(抗原決定基)」と呼ばれるウイルスの特定の構造単位で、数個のアミノ酸などからなる配列(ペプチド)。従って、重篤なCOVID-19を防ぐにはエピトープを見つけることが重要だ。しかし、これまでエピトープの探索は主に欧米人で行われており、日本人に多いHLAのタイプである「HLA-A*24:02」と親和性の高いエピトープに関するT細胞の反応性の詳細は不明だった。
ヒトコロナウイルスにはSARS-CoV-2のほかに、季節性の感染(いわゆる風邪)をもたらす「季節性コロナウイルス(HKU1、OC43、NL63、229E)」と、重篤な症状を伴うMERS(中東呼吸器症候群)ウイルス(MERS- CoV)、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス(SARS-CoV-1)が存在する。日本人の多くは季節性コロナウイルスには感染経験があるため、その「記憶免疫キラーT細胞」が体内に存在している。しかし、その記憶免疫キラーT細胞がSARS-CoV-2やその変異株に対しても殺傷効果を示す、つまり「交差反応」をするかどうかは検証されていなかった。その理由には、季節性コロナウイルスのエピトープは候補が多い点や、末梢血に含まれるT細胞は少ないためにキラーT細胞を増幅させることが難しい点などが挙げられる。
日本人で高親和性のSタンパク質領域エピトープ「QYIペプチド」を同定
今回、共同研究グループは、SARS-CoV-2のSタンパク質領域に存在するエピトープに着目し、まずインシリコスクリーニングにより、HLA-A*24:02に親和性の高い6種類のエピトープ候補(それぞれ9個のアミノ酸からなるペプチド)を選出。これまで使用してきたがんに対するT細胞評価系を改良してSARS-CoV-2に対する解析系を樹立し、6種類の中から最も有力なエピトープとして、Pep#3(QYIペプチド:QYIKWPWYI)を同定した。同定したQYIペプチドは、HLA-A*24:02を持つ健常人の末梢血から80%以上という高い確率でキラーT細胞を誘導できること、また誘導されたキラーT細胞がサイトカインを産生したり、細胞傷害活性を示したりすることがわかった。
興味深いことに、SARS-CoV-2由来のQYIペプチド(エピトープ)は、他の四つの季節性コロナウイルス(HKU1、OC43、NL63、229E)が該当するペプチドのアミノ酸配列と高い相同性を持つこともわかった。これは、季節性コロナウイルスの既感染の結果生じた記憶免疫キラーT細胞が、SARS-CoV-2由来のQYIペプチドにも交差反応する可能性を示している。
白血病や悪性リンパ腫など造血器腫瘍患者は、COVID-19のハイリスク群であるといわれている。そこで、健常人と造血器腫瘍患者においてSARS-CoV-2由来QYIペプチドに対するキラーT細胞の反応性(誘導効率)を調べたところ、健常人では18人中15人(83.3%)が反応したのに対し、造血器腫瘍患者では27人中4人(14.8%)が反応した。この結果は、造血器腫瘍患者では、病気の進行、あるいは化学療法によりキラーT細胞の免疫が健常人に比べて極めて低下していることを示している。
さらに、SARS-CoV-2由来QYIペプチド以外で、季節性コロナウイルスとの相同性が比較的高く、かつHLA-A*24:02に対する親和性が高いエピトープをSARS-CoV-2のSタンパク質領域で探索。すると、QYIペプチドの周辺にエピトープ群が集中する「ホットスポット」が存在することがわかった。実際に、このホットスポットに対応する長いペプチド(27アミノ酸)を用いて、健常人および造血器腫瘍患者におけるキラーT細胞の反応性を調べたところ、健常人では100%、造血器腫瘍患者でも65%がホットスポットに反応することが明らかになった。
キラーT細胞の、新型コロナと季節性コロナに対する交差反応性を確認
SARS-CoV-2と季節性コロナウイルスのエピトープに対するキラーT細胞の交差反応性を検証するために、QYI ペプチド反応性キラーT細胞株(HLA-A*24:02陽性健常人および造血器腫瘍患者)にSARS-CoV-2由来QYIペプチドと季節性コロナウイルス由来該当ペプチドをそれぞれ添加し、交差反応性を調べた。遺伝学的特徴により、7種類のヒトコロナウイルスはアルファコロナウイルス(229E、NL63)とベータコロナウイルス(SARS-CoV-2、SARS-CoV-1、MERS、HKU1、OC43)の2つに分類される。QYI ペプチド反応性キラーT細胞株は、SARS-CoV-2と同じグループのベータコロナウイルス(HKU1、OC43)に対し83~100%の人が、別グループのアルファコロナウイルス(229E、NL63)に対しても58~67%の人が反応することがわかった。
また、SARS-CoV-2由来QYIペプチドおよび季節性コロナウイルス由来該当ペプチドとキラーT細胞の機能的アビディティー(結合力)を定量的に調べた。ペプチド濃度の希釈系列(7段階)を作製し、キラーT細胞の反応性をIFN-γの産生で定量し、キラーT細胞の50%効果濃度(EC50)を求めたところ、SARS-CoV-2と季節性コロナウイルスに対するEC50はほぼ同等の値であると判明。この結果は、SARS-CoV-2交差反応性キラーT細胞が季節性コロナウイルスとSARS-CoV-2の両方に対して機能的に同等な結合力を持つこと、つまり健常人に存在する季節性コロナウイルスに対する記憶免疫キラーT細胞が至適条件下でSARS-CoV-2に反応し得ることを示している。
さらに、T細胞表面に存在するT細胞受容体(TCR)における1細胞レベルでの交差反応性を検証するために、4人(健常人3人、造血器腫瘍患者1人)から4種のTCR遺伝子をクローニングし、別のTCRを発現していないT細胞株へ遺伝子を導入した。ヒトコロナウイルス間での交差反応性を同様に評価したところ、4つのTCRのタイプはそれぞれの人でペプチド認識パターンが異なっていた。TCR1はヒトコロナウイルス由来の全てのペプチドによく反応するのに対し、TCR2はSARS-CoV-1とSARS-CoV-2由来のペプチドにのみ反応した。TCR3はベータコロナウイルスのSARS-CoV-1、SARS-CoV-2とアルファコロナウイルス(NL63、229E)由来のペプチドに反応し、TCR4はベータコロナウイルス(SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERS、HKU1、OC43)由来のペプチドのみに反応した。このように、1細胞レベルでTCRの選択的多様性が存在することが証明された。
最後に、TCRレベルでの交差反応性とHLA-A*24:02-ペプチド複合体の立体構造との関係を調べるため、HLA-A*24:02と3種類のペプチド(SARS-CoV-2、229E、HKU1由来)の結晶構造を解析。その結果、3つの結晶構造はおおよそ類似しており、9個のアミノ酸のうち、2番目(P2)と9番目(P9)はHLAに結合するアンカーで、P1/P4/P5はTCRα鎖に、P7/P8がTCRβ鎖に結合する部位であることが示された。
ワクチン抵抗性者の治療法開発への貢献に期待
日本人のCOVID-19感染者数や死亡者数の割合は、欧米と比べて低いことが知られているが、その根拠は明確ではない。この理由を探るため、今回の研究では日本人に多いタイプのキラーT細胞が認識する抗原部位を探索し、実際に多くの人が反応する部位を同定することに成功した。また、日本人ではSARS-CoV-2に対する記憶免疫キラーT細胞は、季節コロナウイルスとの交差反応性が高いことがわかった。一方で、一部のがん患者(造血器腫瘍患者)では交差反応しにくいことも判明したことから、感染予防のためにはさらなる解析が必要だと研究グループは指摘する。
今後、ワクチン接種者や既感染者について詳しく調べることで、本研究で得られた結果がブレークスルー感染や重症化の予防の指標になると考えられる。また、「今回同定されたホットスポットは、記憶免疫キラーT細胞をSARS-CoV-2に向かわせるキラーT細胞型ワクチンになり得るため、例えばワクチン抵抗性者の治療法の開発に貢献することが期待できる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)
2021年12月11日
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください